ピアノ伴奏におけるコードの転回形は、演奏の表現や楽曲の表情を豊かにするための鍵となるテクニックです。
演奏の自由度を高めたり、楽曲の雰囲気を柔軟に操るために、転回形の理解と習得は必要不可欠。
この記事では、転回形の基本、それによって得られる効果、使用する理由とメリット、そして効果的な練習方法について詳しく解説していきます。
この記事のポイント
- 転回形とは何か、その効果とメリットがわかる。
- 転回形をマスターするための練習方法がわかる。
1.転回形とは何か?
コードの転回とは、コードを構成する音の積む順番(並べる順番)を変えて響きを変化させる手法です。
ここではまず三和音の転回形について紹介していきます。
1. 基本形
「ド」を最低音=ルートに据えた、最も基本的な形です。
2. 第一転回形
最低音が三度の「ミ」の音になります。コード単体で表記する場合「C/E」と表記することもあります。
3. 第二転回形
最低音が5度の「ソ」の音になります。コード単体で表記する場合「C/G」と表記することもあります。
それぞれの転回形がまったく違う雰囲気になっていることがお分かりいただけたかと思います。
転回形の表記について
上記の解説では、基本形=C、第一転回形=C/E、第二転回形=C/Eといった表記をしていますが、実際のピアノ伴奏では、ベース音に特定の音を指定する場合のみ「オンコード」表記を使用します。基本的に、右手で押さえる音の配置をコード表記で指定することはありません。
2.転回形を使う理由とメリット
転回形を使う理由は主に下記のとおりです。
- コードとコードのつながりを滑らかにする
- コード進行の雰囲気を変える
どちらもコード伴奏に欠かせないテクニックになります。具体例を交えてみていきましょう!
1. コードとコードの接続を滑らかにする
転回形を適切に使うと、コードとコードの接続がなめらかになり、演奏がより自然に聴こえるようになります。
下記の演奏を聴き比べてみてください。
a. 基本形のみを使用した演奏例
音が上下に動いてぎこちなさが感じられますね。演奏でも右手を左右に大きく動かすので演奏しづらいです。
b. 転回形を用いてなめらかに接続した演奏
コードからコードへのつながりが自然に感じられますね。演奏の移動範囲も狭まり、大幅に弾きやすくなります。
このように適切に転回形を使用すると、演奏に自然な流れが生まれ、心地よいサウンドを得ることができます。
2. コード進行の雰囲気を変える
セクションの最初や途中の転回形を変えることで、違った雰囲気を作り出すことが可能です。曲中で同じコード進行が繰り返される部分でも、飽きが来ない新鮮さを作ることができます。
セクションの冒頭の転回形を変えて、雰囲気の違いを感じてみましょう。
a. 第二転回形からスタート
b. 第一転回形からスタート
同じコード進行ですが、それぞれがまったく違った雰囲気であることを感じてもらえたかと思います。
例えば、1番と2番のAメロのコード進行が同じだったとしても、このように転回形の変化を入れることでさまざまなコードアレンジが作れます。
3.転回形の練習方法
演奏中に転回形を自在に使えるようにするには、楽曲の練習だけでは不十分です。
実際の演奏では、該当の押さえ方から上下の転回形、さらには1オクターヴ以上離れた転回形にアプローチしていく必要があります。
まずは、基本形から上下の転回形にすばやくアクセスできるようにしましょう。そして、基本形・第一転回形・第二転回形、それぞれの押さえ方に指を馴染ませていきましょう。
下記に紹介する練習方法を楽曲と並行して取り入れてください。
1. 転回形をすばやくアクセスためのエクササイズ
転回形を自在に行き来できるようにするために、おすすめのエクササイズを紹介します。
転回形を身につけるには、上下の転回形にすばやく移行する練習をすることです。
上記のように隣の転回形に移行する練習を行なってください。
エクササイズを行う際は、鍵盤上で以下の点を意識して練習してください。
- 最低音が1オクターブ上の音に移行していること
- 最高音が1オクターブ下の音に移行していること
これらの意識が非常に大切です。楽譜を見て弾いたり、音名だけで覚えるのではなく、実際に鍵盤上で音の動きを確認しながら、手の感覚で転回形を覚えることを目指しましょう。
下記のページでは12のキーのダイアトニックコードを用いたエクササイズを紹介しています。楽譜と動画も配布しているので、ぜひご活用ください。
2. 弾くコードネームを宣言する
上記のエクササイズ練習中は、演奏するコード名を声に出して「宣言」しながら演奏することをおすすめします。このアプローチはあらゆる練習に有効です。
コードが変わる直前に宣言するのが効果的ですが、コードを演奏している最中でも構いません。例えば、「m(b5)」(マイナーフラットファイブ)のような長いコードネームもありますので、宣言のタイミングはこだわりすぎず柔軟に対応して大丈夫です。
押さえ方・コードの響き・コードネーム、それぞれが一致するように意識して練習を繰り返しましょう。
3. 練習するキーの選定方法
上記で紹介したエクササイズを効果的なものにするためには、すべてのキーを一度に練習するのではなく、特定のキーに絞って進めてください。特に練習している楽曲のキーで、曲の練習と並行して行うのがおすすめです。
調号が多くなると演奏の難易度が上がるため、最初はC、F、Gのいずれかのキーがよいでしょう。余裕がある人はさらに隣のBbやDにも挑戦してみてください。
複数のキーでこの練習をこなせるようになると、調号が多いキーにも楽に対応できるようになっていきます。無理のない範囲で、自分のペースで練習を進めてくださいね!
まとめ
ピアノ伴奏におけるコードの転回形は、楽曲の表現力アップに欠かせません。メロディーとのバランス、セクションの雰囲気など、ハーモニーの面でとても重要な手法になります。
基本形、第一転回形、第二転回形それぞれの特徴を感じながら練習してください。まずは三和音の転回形をしっかり理解し、楽に弾ける状態を目指しましょう!
この記事のポイント
- 基本形・第一転回形・第二転回形の押さえ方と音の雰囲気を覚えよう。
- 転回形の活用で楽曲の雰囲気をコントロールできる。
- 転回形を習得するコツは上下の転回形の押さえ方を意識して練習すること。